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2008年11月

ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ『グレゲリア』(続きの続きの続き)

グレゲリアの続きを挙げておきます。

以前のものはこちらこちらこちら

翻訳については、翻訳権というものがあります。ここでは、それを侵害、無視して翻訳しているのではなく、「スペインにこんな面白いことを書く作家が いるよ」という紹介のために一部を引用していると考えてください。原文がスペイン語なので、参考までに僕の拙い訳が付いています。

El texto de base: Gómez de la Serna, Ramón. Greguerías. Ed. Rodolfo Cardona. Madrid: Cátedra, 1988.

Greguerías

 

Greguería=Metáfora + Humor.

 

グレゲリア=隠喩+ユーモア。

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La arquitectura de la nieve es siempre de estilo gótico.

雪の建築はいつもゴシック様式である。

 

Todas la comas de sus reales decretos las lleva colgadas el rey de su manto de armiño.

政令のすべてのコンマは、アーミンの毛皮のマントに引っ掛けて、王が運んでいく。

 

El Nilo es el río de más hermosa y desmelenada cabellera.

ナイル川はもっとも美しき乱れ髪。

 

No debe regalarse el cochecito del primer niño.

初子にミニカーを贈ってはならない。

 

¡Qué dura le ha salido la barba al erizo!

ウニの髭は何て堅いんだ。

 

Si las miniaturas fuesen comestibles, serían exquisitas.

ディスプレーの模型が食べられるなら美味いだろうに。

 

El grillo mide las pulsaciones de la noche.

コオロギは夜の脈を計っている。

 

Los plátanos envejecen en un solo día.

バナナはたった一日で老いる。

 

Hipocondríaco, no sé por qué, me parece algo así como la mezcla disparatada de hipopótamo y cocodrilo.

どういうわけだか知らないが、心気症患者(イポコンドリアコ)という言葉はカバ(イポポタモ)とワニ(ココドリロ)の出鱈目な掛け合わせに聞こえる。

 

La luna en la solapa de la noche es la condecoración circulante.

月は夜の胸元に回転する勲章だ。

 

A las palmeras viejas las sale en los troncos la pelambre de la vejez.

古いヤシの幹からはもじゃもじゃとした老人の毛が生えている。

 

De la pipa, y también de los cigarillos, saltan pulgas de fuego con mala picadura.

パイプ、そしてまた紙巻タバコから、火のノミが跳ねて、こいつに噛まれるとひどく痛い。

 

El trueno es un tambor mayor sin oído.

雷鳴は音感を欠いた特大の鼓手である。

 

El pitido del tren sólo sirve para sembrar de melancolía los campos.

汽笛は野に憂鬱を撒き散らす役にしか立たない。

 

El ciclista es un vampiro de la velocidad.

自転車レーサーはスピードの吸血鬼である。

 

Lo malo del helicóptero es que siempre parece un juguete.

ヘリコプターの悪いところは、いつだっておもちゃに見えることだ。

 

Los lagos son los charcos que quedaron del Diluvio.

湖は(ノアの)大洪水以来残っている水たまりである。

 

Definición amanerada: La cucaracha es un traslaticio lunar de la noche.

きどった定義:ゴキブリとは、夜を指す月の比喩。

 

El granizo arroja su arroz festejando la boda del estío.

夏の婚礼を祝って、雹はライスシャワーを浴びせる。

 

Las olas esculpen en las rocas calaveras de gigantes.

波は岩に巨人のドクロを彫りこむ。

 

Las Venus marmóreas de los museos presentan manchas de pellizcos.

美術館にいる大理石のヴィーナスたちには、つねられた痕がある。

 

Si el espejo corriese de pronto su cortina de azogue, veríamos nuestra radiografía.

鏡が突然水銀のカーテンを開いたら、僕達は自分のレントゲン写真を見るだろう。

 

Al oír la noticia se desmayó el sofá.

知らせを聞いて、ソファーがひっくり返った。

 

El hielo se demite porque llora de frío.

氷が解けるのは、寒くて泣くせいである。

 

El reloj es una bomba de tiempo, de más o menos tiempo.

遅かれ早かれ、時計は時限爆弾である。

 

El beso es una nada entre paréntesis.

口づけはカッコの中の虚無である。(このグレゲリアには口づけする二つの唇の絵が添えられている。)

 

Como psicoanalistas descubrimos que esa que se ha hecho un traje con tantos botones es que quiere ser piano.

 

精神分析医のやり方にならって我々は発見する。ボタンのたくさんついた服を仕立てる女はピアノになりたいということを。

 

En las playas, nuestros zapatos se convierten en relojes de arena.

ビーチで僕達の靴は砂時計に姿を変える。

 

Donde es más feliz el agua es en los cangilones de la noria.

水が一番幸せなのは、水車の水受け板の中にいるときだ。

 

Queremos ser de piedra y somos de gelatina.

石で出来ていたらと願う我々はゼラチンで出来ている。

 

Lo que más les molesta a las estatuas de mármol es que tienen siempre los pies fríos.

大理石の像にとって一番腹立たしいのは、いつだって足が冷たいことである。

 

Don Juan pide amor como quien pide trabajo.

ドン・ファンは愛を求める。仕事を求める人のように。

 

Hay unas vallas que los niños creen que están hechas con grandes lápices.

子供達がそれは巨大な鉛筆で出来ていると思う囲いがある。(このグレゲリアには先の尖った板囲いの絵が添えられている。)

 

El sueño es un depósito de objetos extraviados.

夢は遺失物預かり所である。

 

El peine es pentagrama de ideas muertas.

櫛は古い記憶の五線譜である。

 

En los gallineros hay nevada de plumas.

鶏舎には羽毛の雪が積もっている。

 

La arquitectura árabe es el agrandamiento del ojo de la cerradura.

アラビア建築は鍵穴を巨大化したものである。(このグレゲリアには典型的な馬蹄型アーチの絵が添えられている。)

 

El murciélago se ve que ha salido de la caja de prestidigitación del diablo.

コウモリは悪魔の手品の箱から飛び出した。

 

De los juncos nació el flamenco.

フラミンゴは葦より生まれた。

 

La luna es la lavandera de la noche.

月は夜を洗濯する。

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ゲームのルール

1.
外国で暮らした経験はそれなりにある。僕が十代の頃は国際人なんて言葉が流行っていた。外の世界を見て、僕がより開かれた人間になったかは不明だ。まだ知らない場所の方がおおい。国際人を名乗る知識人に僕は出逢ったことがない。海外旅行で世の中を知ったような気になっている連中ならいくらでもいるが。

旅は自分自身を削り取りながら、最後に捨てられないものを見出す作業だ。およそ、蓄積とは反対の行為だ。だから楽観主義に陥る暇は、僕にはなかった。複数の外国語は僕にとって、読み、書き、話すためのツールでしかなく、それさえも決して十分とはいえない。

それでも僕に分かっているのは、いい人に出会う確率も、悪い人に出会う確率も、そう変わらないということだけだ。どうにかこうにか、僕がこうして生きていられるのは、そのささやかな出会いによるものだということだ。

2.
初めてスペインに来たのは10年も前のこと。

その時はあまりスペインが好きではなかった、と言っておこう。けれどそれは、ゲームのルールが分からないくせに、チェスを、将棋を、貶すようなものであった。

情けないことだが、僕はろくにスペイン語も分からないで、すべて英語で対応していた。思えばその時はまだ僕にとって英語がもっとも使いやすい言語であって(さらにいえば日本語よりも楽だった)、きっとその言葉は傲慢に響いただろう。

スペインに来るのは今回で四度目。来る度になぜか、僕はスペインを好きになっている。嫌な部分はもちろんあるが、ルールに熟達して、僕はこのゲームを愉しみ始めているのかもしれない。ルールを解さない横柄な外国人を見ては、肩をすくめている。

A donde fueres, haz lo que vieres.
(郷に入りては郷に従え。)

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とげとげ

Gijon_rain

ヒホン(Gijón)はアストゥリアス語ではシション(Xixón)というような発音になります。

先週、行ってきました。残念ながら天気はよくなかったのですが、懐かしく感じました。

この街はオビエドよりも活気がある気がします。オビエドの人はもっとおとなしいと思う。

ところで今はウニのシーズンだそうです。スペイン語でErizo de mar(海のイガイガ)というのだけれど、ここらではOricioと看板に書いてあります。アストゥリアス語でしょうか。

残念ながら僕はウニがあまり好きではない。それでも近いうちに挑戦してみようかな、と思っています。街には焼き栗のスタンドが立っています。こちらなら食べられそうな気がします。

青空、大雨、青空、大雨のローテーションで、オビエドの昼と夜が過ぎていきます。

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図書室

僕が今利用させていただいているのは、IFES XVIIIという、暗号みたいな名前の機関の図書室です。オビエド大学の学部の建物に入っていて、18世紀の資料が開架で閲覧できます。Catedra_feijoo01 もう、とんでもない品揃えです。

人文科学としての文学研究がどんどん隆盛を見たのが19世紀なので、19世紀が評価しなかった18世紀という時代の資料はあまり省みられることもなかった、のかな。いや、実際はそんなことはないけれど、普通にある本として18世紀のものがあり、貴重なものとして珍重される16,17世紀のものがあり、という対照があったのではないかな、と僕は想像します。

とにかく、18世紀のものを20世紀にもしっかり収集したところがこの図書室のすごいところで、かつ今なおそれが継続しています。オビエド大学の機関というよりは、18世紀研究に関わっている人が研究の中心地としてここを確立しようとしたので、もっと公共的な目的がある。

すごいのは、すべて開架で見られることで、今日この量を気前良く見せてくれることがすごいな、と思います。とりわけ、定期刊行物などは、パラパラと見ることが出来るのは大きなメリットなんです。

Milan

所在地はオビエド大学の人文科学キャンパスの学部棟の3階(日本で言う4階)です。学生は別の建物で授業を受けているので、先生達のオフィスや各学科の事務室などが並んでいる建物です。写真の中で黄色い倉庫みたいなのがそれ。右端のオレンジのは教室棟など。上から見ると、この黄色い倉庫みたいな建物はフォークみたいな形をしていて、すべて繋がっています。

Tronco

玄関を出たところにこんな不思議な木が落ちています。

なんかオブジェみたい。犬とか、狼とかみたいに見える。元々は撤去する予定だったのだが、なんかいい感じだったのでそのままになっているのでは、と思ってみたり。

Parque_en_rente

 

IFES XVIIIの図書室は午後二時に閉室になるので、そのあとは大学の図書館や、天気がよければ公園などで本を読んでいます。

犬が芝生を駆け回っていたり、噴水のそばでいつもギターを弾いているおじさんがいたり。

もうすぐ師走です。

 

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雲の切れ間

Oviedo_sky 雨、雨といっていましたが、最近はすこし回復しています。暖かいと思える日もちらほらあって。もちろん、夕方くらいから寒くなるのですが、日本より暖かいかもしれません。

来週は友人が訪ねてきます。折角なので、美しいアストゥリアスをお見せ出来ればいいなと思っています。僕の好きなヒホンという街へも行くつもりです。一年ぶりだー。

外が雨でも湿気がこもって、ということはない気がします。建物は二重窓が多く、ラジエーターの暖房が多く配されているので、屋内にいて寒いということはありません。

さて、遅ればせながら僕もスペイン語で『ドン・キホーテ』を読んでいます。スペイン語で挑戦しようと言う人は、どの版を手に取るべきなのか。あまりにも数が多すぎて、という感があります。出来れば複数の版を入手することをオススメします。たとえば、あるエディションを読んで意味が分からなくて、注が付いていなくても、別の版に当たれば書いてあるかもしれないですし。とはいっても、すべての人が研究者でもないし、またスペイン語の分かるレベルも違うと思います。

たとえば、研究者の人ならCríticaというバルセロナの出版社から出たものをオススメします。幾つか種類があるのですが、自分は卒論でセルバンテスを扱う、というひとなら、二巻本の大きなもの(CDROM付き)をおすすめします。フランシスコ・リコという大物中の大物が全力を注いだエディション。とにかく、セルバンテス研究者は必須のアイテムです。

自分はセルバンテス研究者ではないが、ある程度学術的なレファレンスが必要という人は、同じくCríticaから出ているもので、しかしサイズの小さいものがあるので、こちらをご利用ください。あと、Cátedraという出版社からJohn Jay Allenという人の版が出ていて、僕はこれも好きです(まあ、これは単純にCátedraの出版物が好きという程度ですが)。

さらに、いや別に研究者でも何でもないけど、スペイン語はそこそこ読めるから、珍しい単語だけ注釈が付いていて、あとはスルーでOKです、という人には、これもフランシスコ・リコのものですが、簡易版がPunto de Lecturaという会社から出ています。つまり、ここまで言及してきた版についていた詳細な注を、必要最低限まで縮小したというもの。

通常、Punto de Lecturaは背表紙がダサいペーパーバックですが、この『ドン・キホーテ』はハードカバーで、14ユーロくらいです。表紙のデザインもよろしい。しかもですね、愛書家には評判の良いGalaxia de Gutembergという会社から先に出したものと同じ内容で、価格は3分の1くらいにして売っているのです。なに、このお買い得感!?

そんなわけで、「すごい、すごい、と皆が言う『ドン・キホーテ』、どれひとつ読んでみるか」という方にはこの最後のものが大変オススメです。

僕はここに挙げたものはすべて持っているので、ちょっと見てみたいという方はどうぞ。

というか、すべてがフランシスコ・リコの手になるもの。恐るべし。

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個人的なメモ(物忘れ防止)

個人的なメモ(物忘れ防止)

テーマ(並べ替え):

La España idealizada por los Ilustrados.

La Patria representada en el teatro del s. XVIII

Las publicaciones patrióticas del s. XVIII (Al empezar, la carta de Lord Bolingbrook)

Defensa(s) de la nación y los viajeros extranjeros en España (la imágen de DQ)

El movimiento de auto canónización (la literatura española como la clásica: neoclásica)

国旗・国歌

La nueva planta (la reforma de los Borbones)

Auto Justificación (Creación de mitos en torno a sí misma)

 

材料:

自己言及的、愛国的主題の資料。

18世紀にスペインにやってきた外国人の旅行者の記録。

 

分野:

演劇

Cadalso, Jovellanos, Moratín (el padre), García de la Huerta, Ramón de la Cruz, Olavide

 

Meléndez Valdés, Cadalso, Moratín (el padre), Iriarte(¿?)

 

小説・エッセイ

Feijoo, Fray Gerundio...

 

絵画

Goya

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ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ『グレゲリア』(続きの続き)

グレゲリアの続きを挙げておきます。

以前のものはこちらこちら

翻訳については、翻訳権というものがあります。ここでは、それを侵害、無視して翻訳しているのではなく、「スペインにこんな面白いことを書く作家がいるよ」という紹介のために一部を引用していると考えてください。原文がスペイン語なので、参考までに僕の拙い訳が付いています。

El texto de base: Gómez de la Serna, Ramón. Greguerías. Ed. Rodolfo Cardona. Madrid: Cátedra, 1988.

Greguerías

 

Greguería=Metáfora + Humor.

 

グレゲリア=隠喩+ユーモア。

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El cocodrilo es una maleta que viaja por su cuenta.

 

ワニは自分で動き回る旅行カバンである。

 

El orador es un instrumento de viento que toca solo.

 

説教師とは風でひとりでに鳴る楽器である。

 

Los perros buscan afanosamente al dueño que tuvieron en otra encarnación.

 

犬は前世での主人を熱心に探す。

 

La luna necesita gatos, pero no puede hacer que llegue a ella ninguno.

 

月はネコを必要としているが、一匹たりとも到達させることが出来ずにいる。

 

Las ranas están siempre en pleno concurso de natación.

 

蛙たちはいつも競泳大会の真っ最中である。

 

El sábado inglés es un injerto de domingo y lunes.

 

イギリスの土曜日は日曜と月曜の接ぎ穂である。

 

El demonio no es más que el mono más listo de los monos.

 

悪魔とはすべての猿たちのうちで最も賢い一匹に過ぎない。

 

El camello está siempre apolillado.

 

ラクダはいつでも時代遅れである。

 

La luna es un Banco de metáforas arruinado.

 

月は隠喩の銀行が破産したものである。

 

En los museos de reproducciones escultóricas es donde los papás oyen a los niños las cosas más insólitas:

--¡Papá, a mí no me ha salido aún la hoja!

 

模造彫刻の博物館は、こどもが父親に途方もないことを言う場所である。

「パパ、僕はまだ葉っぱも生えてきてないよ!」(このグレゲリアには陰部を葉で覆った彫刻の絵が添えられている。)

 

El cocodrilo es un zapato desclavado.

 

ワニはディスプレイを離れた靴である。

 

La oruga del dentífrico.

 

歯磨き粉の芋虫。

 

--Tráigame una botella de agua con agujeritos.

--¡Ah! –dijo el mozo--. Ya sé... De ese agua con calambre que sabe a pie dormido.

 

「炭酸水のボトルを」

「ええ」ボーイが言った。「もちろんですとも・・・痺れた足の味がするびりびりした水ですね」

 

La luna es el ojo de buey del barco de la noche.

 

月は夜という船の舷窓である。


Toda la joyería se ha ruborizado. ¡La ha mirado un comunista!

 

宝石店が真っ赤になった。コミュニストが見つめていたのだ。

 

Las máquinas fotográficas quisieran ser acordeones, y los acordeones, máquinas fotográficas.

 

写真機はアコーディオンに、アコーディオンは写真機になりたい。

 

La verdosa langosta se pone roja de cólera cuando la hierven.

 

煮え立つ湯に入れられると、緑がかったロブスターは怒りで真っ赤になる。

 

No gozamos bien el canto del ruiseñor, porque siempre dudamos de que sea el ruiseñor.

 

それがナイチンゲールかどうか、自信が持てないせいでそのさえずりを心ゆくまで愉しむことは出来ない。

 

El que transporta el violón se parece a la hormiga cuando carga una brizna demasiado grande.

 

コントラバスを運んでいる人は、大きすぎるパンくずを抱えたアリのようである。

 

En el acordeón se exprimen limones musicales.

 

アコーディオンの中で音楽のレモンが絞られる。

 

Diccionario quiere decir millonario en palabras.

 

辞書とは語彙の億万長者である。

 

El mar se está queriendo hacer tirabuzones y nunca lo consigue.

 

海は回転飛込みを試みているが、成功しない。

 

El ananá es una fruta disfrazada de piel roja.

 

パイナップルは赤い皮で変装したフルーツである。

 

Nostalgia: neuralgia de los recuerdos.

 

ノスタルジー:思い出の神経痛。

 

La niebla acaba en andrajos.

 

霧のヴェールはぼろきれになって朽ちる。

 

El pavo real es un mito jubilado.

 

孔雀は引退した神話である。

 

La golondrina se encoge de hombros en medio de su vuelo.

 

飛ぶツバメは肩をすくめている。

 

Camoens y Cervantes son como dos compañeros de asilo, el uno tuerto y el otro manco.

 

一人は片目、一人は片腕、カモンイスとセルバンテスは施設の仲間のようだ。

(ルイス・デ・カモンイスは『ウズ・ルジアダス』で有名なポルトガルの大詩人。『ドン・キホーテ』の作者ミゲル・デ・セルバンテスはレパントの海戦で腕を負傷した。)

 

El verano está lleno de siseos anónimos.

 

夏は誰のものか分からない舌打ちでいっぱいだ。

 

La sonámbula parece llevar en el paréntesis de sus manos extendidas la medida de algo, quizá de su sudario.

 

夢遊病の女は開いた手と手の間の括弧で、何か恐らくは汗拭きタオルの大きさを表している。

 

La A es la tienda de campaña del alfabeto.

 

Aはアルファベットのテントである。

 

«Pan» es palabra tan breve para que podamos pedirlo con urgencia.

 

急いでいても注文できるように、「パン」という言葉はかくも短い。

 

Era tan cumplido que a veces saludaba a los árboles.

 

折り目正しいことこの上ない彼は、時に樹木にまでお辞儀をしていた。

 

Dos en un auto: idilio. Tres: adulterio. Cuatro: secuestro. Cinco: crimen. Seis: tiroteo con la Policía.

 

車の中に二人:恋。三人:不倫。四人:誘拐。五人:犯罪。六人:警察と撃ち合い。

 

Acabo de saber lo que es una botella de champaña: un cañón antiaéreo.

 

シャンパンのボトルがなにか、たった今分かった。対空砲だ。(このグレゲリアには氷のバケツで冷やされているシャンパンボトルの絵が添えられている。)

 


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なき王女のための・・・

 数年前の新聞記事で、僕はその人のことを知った。死んでしまった後で、誰かのことを知る。出来事は既に決着が付いていて、今から付け足されるべきことは、もうあまりない。
 彼女は中近東のある国の王女だった。王である父が死んだ際、相続、継承の紛糾から逃れるため、産みの母親(王には妻が複数いたのだろう)とともにヨーロッパへ亡命する。
 経済的には十分すぎる資産を持っていたので、生活には困らなかった。高い水準の教育を受けていたから、訪れるそれぞれの先で話される言語には不自由することもなかった。やがて母親は亡くなり、彼女は祖国から切り離され、王家からも遠く隔たって、一人で生きた。
 彼女はロンドンのホテルのバスルームで自殺を遂げる。僕が彼女を知ったのはその死亡記事でのことだった。質素な生活を送り、静謐な暮らしを好んでいた。友達は少なかった。王女の亡骸の引き取り手はなく、行政によってその他大勢の身元不明の遺体と共に葬られた。
 僕は最近折に触れ、彼女のことを思い出す。

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2008年第4四半期の月刊誕生日プレゼント

今期気になるアニメは『かんなぎ』と『黒執事』です。

え、そんなことはどうでもいい?

ここにはどうでもいいことしか書いていないのですよ、坊ちゃん。

さて、僕は毎月自分の誕生日にプレゼントを贈ります。

2008年第4四半期のプレゼントが大体出揃ったのでご報告。

Hugobosspecial 10月:HUGO BOSSの香水(スペッシャル!)

中身は同じですが、入れ物がすごいので衝動買い。10月末なので、引っ越し祝いもかねて。

銀色のめっきをしてありますが、実際はガラスなので、落とすと割れてしまいます。気をつけましょう。

そういえば、日本では売っていないHUGO BOSSのデオスティックも持っています。

これはおしゃれとかそういうことではなくて、自分で自分にやるきを与えるためのものです。だから、贅沢品というよりは、精神的に参りやすい僕が人生を何とかやり過ごすのに必要な、クスリみたいなものです。

11月:Sisleyのシャツ

これはまだ買っていませんが、美しいシャツを見つけたので、それを贈ろうと考えています。気が変わるかもしれませんが、今のところ。

12月:Obras completas de Gaspar Melchor de Jovellanos

12月は僕の誕生日なので、ここではちょっと大きな買い物をしたいです。たまには本気を出そうじゃないか!

世界最強のホベジャーノス研究者カソ・ゴンサレスが創始して、しかも存命中には完了しなかった、超強力プロジェクト。

ホベジャーノス全集。百科事典みたいな厚さだよ・・・。

買うのは大学図書館と研究者くらいでしょうか。

現在11巻まで出ていますが(ただし8巻はまだ)、あと4,5冊追加されます。一応現時点まで出ているものをすべて買いました(過去形)。そう、今日出版元に直接行ってきたの。思い立ったが吉日とね。

なお、限定版というのもあって(装丁、印刷や紙が特別なのです)、シリアルナンバー1番はスペイン王妃が予約購入されたそうです。

置き場所を考えつつ、頭を悩ませています。

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ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ『グレゲリア』(続き)

グレゲリアの続きを挙げておきます。

以前のものはこちら

翻訳については、翻訳権というものがあります。ここでは、それを侵害、無視して翻訳しているのではなく、「スペインにこんな面白いことを書く作家がいる よ」という紹介のために一部を引用していると考えてください。原文がスペイン語なので、参考までに僕の拙い訳が付いています。

El texto de base: Gómez de la Serna, Ramón. Greguerías. Ed. Rodolfo Cardona. Madrid: Cátedra, 1988.

Greguerías

 

Greguería=Metáfora + Humor.

 

グレゲリア=隠喩+ユーモア。

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La mujer es así: las medias no pueden ir arrugadas, pero los guantes largos sí.

 

ストッキングに皺がよっていてはいけないが、長い手袋については良しとする。女とはそういうもの。

 

El hielo suena en el vaso como el cencerro de cristal de la cabra del whisky.

 

グラスの中の氷は、ウィスキーのヤギが提げているガラスのカウベルの音がする。

 

La pala es la primera y la última amiga del hombre, primero en la arena de los juegos infantiles y por fin descansando sobre el último montículo en el cementerio.

 

スコップは人間の最初の、そして最後の友達。出会いは子供時代の砂遊びで、お別れは墓地に築かれた小山の下で安息を食みながら。

 

Los perros nos enseñan la lengua como si nos hubiesen tomado por el doctor.

 

犬はまるでこちらを医者と思っているかのように舌を見せる。

 

El tábano pasa cantándoles el responso a las flores.

 

花たちに死者のための祈りを捧げながら、虻は飛んでいる。

 

Monólogo significa el mono que habla solo.

 

モノローグとは猿(モノ)が一匹で話をしているという意味。

 

Los hay-kais son telegramas poéticos.

 

俳句とは詩的な電報である。

 

La T es el martillo del abecedario.

 

Tはアルファベットのハンマーである。

 

Cuando el pollo está bien asado es cuando tiene color de violín.

 

鶏が良い具合にローストされている時、それはヴァイオリンの色をしている。

 

Las chispas son estornudos de Satanás.

 

機知とはサタンのくしゃみである。

 

El anfitrión parece ser un señor que toca un instrumento musical.

 

パーティで客をもてなす人は楽器の演奏家のように見える。

 

Lo más importante de la vida es no haber muerto.

 

人生で一番大切なことは死んでいないということ。

 

Hay más millones de microbios en un billete de Banco que los millones que el Banco dice tener de capital.

 

中央銀行が保有しているという莫大な資本よりも、膨大な数の細菌が一枚の紙幣の上にいる。

 

Debía de haber unos gemelos de oler para percibir el perfume de los jardines lejanos.

遠い庭園の匂いを嗅ぐためには、嗅覚の双眼鏡がいくつも必要だろう。

 

La magia se ha perdido. ¡Ya hay zapatos de cristal para todos los pies!

 

魔法は死んだ。ガラスの靴はすべてのサイズが揃っている!

 

Los halcones son los perros de caza para el cielo.

 

鷹は空の猟犬である。

 

Los académicos debieran tener derecho a usar en las sesiones gorros de dormir.

 

アカデミー会員は会議中にナイトキャップを使用する権利を有しているに違いない。

 

El Cid se hacía un nudo en la barba para acordarse de los que tenía que matar.

 

エル・シッドは倒すべき相手を忘れないために髭に結び目を作っていた。(叙事詩『わがシッドの歌』に歌われた、レコンキスタ自体の剛勇無双の人物。長い髭で有名。)

 

La plancha eléctrica parece servir café a las camisas.

 

電気アイロンはシャツのためにコーヒーを淹れているようだ。

 

En la veleta, el viento monta en bicicleta.

 

風見鶏の前では、風は自転車に乗っている。

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ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ『グレゲリア』

ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ(Ramón Gómez de la Serna, 1888-1963)という変な人がいます。

どう変かということはおいおいお話しすることにして、彼の作品で『グレゲリア』という作品があります。このグレゲリアという言葉も、本来は「騒ぎ」というようなマニアックな単語ですが、彼が勝手に作ったジャンルで、一口に言えば奇想寸言集です。あえて超訳すれば『しっちゃ歌めっちゃ歌』というところでしょうか。いや・・・違うな。

時々目を引くものもあり、全然たいしたことないものもあり、ただ驚くべきは長年にわたってこれを書き続けたということ。 自然発生的に生まれるものだそうです。頭の回転が速すぎて面白いこと次々口にしてしまう人だったのでしょうか。パスカルの『パンセ』に奇想天外のスパイスを目いっぱい放り込んだ感じ。

知らなかったのですが、2007年に日本で抄訳がでているそうです。ひゃあ。それとは別に、紹介するという意味で、ちょこっと翻訳しておきます。間違いがあったら是非教えてください。ジョーク好きな人が隣に座って、延々しゃべりかけてきたと思ってください。ジョークを解説しても仕方が無いので、必要最低限でしか注はつけません(括弧の中がそうです)。

翻訳については、翻訳権というものがあります。ここでは、それを侵害、無視して翻訳しているのではなく、「スペインにこんな面白いことを書く作家がいる よ」という紹介のために一部を引用していると考えてください。原文がスペイン語なので、参考までに僕の拙い訳が付いています。

おことわり:グレゲリーア(ス)と表記するべきかもしれませんが、字面が間延びするので勘弁してください。

El texto de base: Gómez de la Serna, Ramón. Greguerías. Ed. Rodolfo Cardona. Madrid: Cátedra, 1988.

Greguerías

 

Greguería=Metáfora + Humor.

 

グレゲリア=隠喩+ユーモア。

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Esa cosa que tiene el piano de cola dentro como para tejer mantillas de madroños.

 

グランドピアノの中にある、フリンジ付きショール編み機のようなあれ。

 

Al cocinero inexperto se le caen los ajos.

 

未熟なコックにはニンニクが足りない。

 

¡Qué extraña es la vida? Siempre queda pincel para la goma, pero ya no hay goma.

 

人生とはなんとおかしなものか!糊はもう無いのに、刷毛はいつだってある。

 

Templar bien el agua del baño es como preparar un buen té.

 

加減良く風呂に湯を張るのは、おいしい紅茶を淹れるようなものだ。

 

El arco del violín cose, como aguja con hilo, notas y almas, almas y notas.

 

ヴァイオリンの弓は、針と糸のように、音符と心、心と音符を縫い合わせる。

 

La espina dorsal es el bastón que nos tragamos al nacer.

 

背骨は私達が生まれる時に飲み込んだ杖だ。

 

Cuando la mujer pide ensalada de fruta para dos, perfecciona el pecado original.

 

女性が二人前のフルーツサラダを頼む時、原罪は完成される。

 

«Ídem», buen seudónimo para un plagiario.

 

「同上」、剽窃者の美しき別名。

 

El que parte salchichón es un monedero falso.

 

ソーセージを切り分けるのは贋金造り。

 

Los conejos de Indias murmuran en los laboratorios: «¡A que no se atreverían a hacer lo mismo con osos blancos!»

 

実験室でモルモットが囁いている。「白熊にはこんなこと出来ないくせに!」

 

El poeta se alimenta con galletas de luna.

 

詩人は月のビスケットを食べて腹を満たす。

 

A veces nos preguntamos cómo algún hombre malísimo puede proceder de la santa familia que ocupó el Arca, pero para comprenderlo pensamos que alguien se metió de polizón.

 

時に、極悪人がどうしてノアの箱舟に乗ることを許された聖家族から生まれるのか不思議に思うが、密航者があったと思えば理解も出来る。

 

El único fruto pasional que se entreabre ansioso de ver la vida es la granada.

 

人生を目にすることにうずうずして、勝手に開く唯一のパッションフルーツはザクロである。

 

La ametralladora nació del loco deseo que tenía el cazador de meter su cinturón-cartuchera entre gatillo y cañon.

 

機関銃は自分のガンベルトを引き金と砲身の間に入れたいという歩兵のイカれた欲望から誕生した。

 

La unidad de fuerza de los motores de aviación no debía ser el caballo, sino el hipogrifo o el clavileño.

 

飛行機のエンジンの出力の単位は馬力ではなく、グリフォン力または天馬力でなければいけない。

 

La alcachofa es un alimento para ebanistas, carpinteros y tallistas.

 

アーティーチョークは指物師、大工、木彫師の食い物である。

 

Los húsares van vestidos de radiografía.

 

軽騎兵はレントゲン写真を身にまとう。

 

El tren parece el buscapiés del paisaje.

 

列車は風景のねずみ花火だ。

 

No se sabrá nunca si la cresta del gallo quiere ser corona o gorro frigio.

 

鶏のとさかが王冠なのか、フリギア帽なのか、決して知ることは出来ない。

 

Cuando al casorio se le llama himeneo, parece que va a ser boda con rumba final.

 

結婚がヒメネオと呼ばれるなら、最後はドタバタ騒ぎとなるだろう。

(ヒメネオは「結婚」を意味する文章語。ヒメンが「処女膜」を意味する)

 

La luna de los rascacielos no es la misma luna de los horizontes.

 

摩天楼に浮かぶ月は、地平線に浮かぶそれと同じものではない。

 

La linterna del acomodador nos deja una mancha de luz en el traje.

 

映画館の案内係のライトは服に光のしみを残す。

 

Eva nació de una costilla de Adán, pero en seguida devolvió en sus hijos muchas más costillas que la que la habían adelantado.

 

イヴはアダムの肋骨から生まれたか、すぐさま自分が生まれたより沢山の肋骨を子供達に返した。

 

El fotógrafo nos coloca en la postura más difícil con la pretensión de que salgamos más naturales.

 

より自然に写るようにと、カメラマンはひどく困難なポーズをとらせる。

 

El par de huevos que nos tomamos parece que son gemelos, y no son ni primos terceros.

 

私達が食べた二つの卵は双子に見えるが、また従兄弟でさえない。

 

Los hongos y las setas vienen del mundo de los gnomos.

 

キノコはノームの世界からやってくる。(ノームは大地の精霊である小人)

 

El Dante iba todos los sábados a la peluquería para que le reconrtasen la corona de laurel.

 

ダンテは土曜日にはきまって床屋に行き、月桂冠を刈り込んだ。

 

Las espigas hacen cosquillas al viento.

 

麦の穂は風をくすぐる。

 

La gallina es la única cocinera que sabe hacer con un poco de maíz sin huevo, un huevo sin maíz.

 

卵なしでわずかのトウモロコシから、トウモロコシの入っていない卵を作る事が出来る唯一の料理人は雌鳥である。

 

El que se pone la mano en la oreja para oír mejor parece querer cazar la mosca de lo que se dice.

 

よく聴くために耳に手をあてる人は、話の中に含まれるハエを捕まえたいようにみえる。

 

Miércoles: día largo por definición.

 

水曜日:定義によれば長い日。

 

Al que se le cae la cerveza encima, es como si hubiese tenido en brazos al Benjamín de la casa.

 

ビールを浴びせかけられている人は、腕に末の息子を抱いているかのようだ。

 

Pingüino es una palabra atacada por las moscas.

 

ペンギンという言葉はハエに攻撃されている。(ペンギンを意味する語に沢山の点があるのをハエに見立てている)

 

Sólo el poeta tiene reloj de luna.

 

月の時計は詩人だけのもの。

 

La luna es como un espejito con que la vecina impertinente y jugetona refleja el sol en los ojos del asomado al balcón.

 

月は、失礼でいたずら好きな隣人がバルコニーに身を乗り出した誰かの目に太陽を反射させる小さな鏡のようなものだ。

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月のナイフ

moon edge

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 天窓から見える月は細く、心もとなく輝いていた。
 雨が上がった庭から、土の匂いが立ち上っている。
 実家の敷地内にログハウスを建てた。まるでプラモデルのように、ログハウスを建てるためのキットが売っているので、インターネットでそれを買った。三十半ばで辞めた会社の退職金も一部支払いにあてた。思ったより安かった。
 二週間ほどして、とんでもない量の木材が家に届く。たとえ小さくてもログハウス一つ分の木材というのは案外ヴォリュームのあるもので、なるほど家を建てるというのは伊達や酔狂では出来ないことだと、伊達や酔狂で手を出した僕は早速後悔しはじめた。
 高校時代の友人が家業の大工を継いでいたので、連絡を取って相談した。とても一人では組み立てられそうに無い。キットの説明書がそもそも英語で書いてあって、必要な工具は殆ど持っていない。縁なしメガネをかけて、ラルフ・ローレンのポロシャツを着た棚部は大工というには余りにも優男だったが、一通り僕の間抜けな話を聞いて、図面を見た後で、面白いな、と言った。自分の仕事があるから毎日付き合うわけには行かないが、暇な時間を利用して手伝ってくれることになった。持つべきものは友達だ。スウェーデン製のそのキットの図面を見ながら、棚部は改良を加えるべき点を幾つか指摘し、また水道回りと電気系統の配線は別の業者を手配しなくてはいけないといった。
 春先に弟が死んだ。年が離れていたせいで、小さい時は喧嘩をすることも殆ど無く、弟が地方の大学にいってからは正月くらいにしか顔を合わせることは無かった。驚いたことに死因は餓死だった。言っておくがうちは大学生一人に仕送りが出来ないほど貧しいわけではない。潤沢とはいえないがそれなりの資産もあり、弟自身もアルバイトをしていたのだから、金に困って食えなくなったというわけではないのだ。
 日記などの遺品の整理をしながら、それが自発的な死だったのだということが分かってきた。弟としてはクリーンな死を選んだつもりなのだろう。自殺という言葉で括られてしまえば、どうしてもネガティブなものを孕んでしまうが、弟は自分から望んで死んでみようとしたのだった。死を恐れるべきものとしてではなく、しかし誰もが経験するものとして、ただ少し早く迎えたかったのだ。道具も使わず、部屋も汚さずに死ぬつもりだったのだろうが、結果はそれほどクリーンだったわけではない。時間がたってから弟の部屋には大量の蝿が発生し、その羽音を不審に思った隣人が管理人に連絡し、ドアを開けた管理人は地獄絵を見たことだろう。連絡を受けて遺体の引き取りに行った僕は、綺麗に処理された弟の細い体しか目にしていない。苦悶の表情を浮かべてはいなかったので、ウトウトしながら息を引き取ったのならいいな、と思った。
 当然ながら、弟の死は両親にとって衝撃だった。生きることに絶望して死を選んだというわけではないのだが、それでも自分の子供を弔うという経験は悲惨なものだ。父親は仕事を支えにしたが、母親はすっかり落胆して、今度はこっちが死にそうな様子になった。心配になった僕は仕事をやめて、自宅で母親の話し相手をして過ごした。彼女は最近元気を取り戻してきたように思える。毎朝仏壇の弟の写真に向って長いこと座っているが、一時期見られた荒々しいものは表情から消えた。
 一方僕はといえば、弟が自分から死を選んだことを誰か一人くらい誇りに思ってやらなきゃな、と変な理屈でもってそれを受け入れることにした。そうでなければ弟も悲しむだろうと思ったのだ。小さい頃から理屈っぽくて、妙なことばかりしてきた弟だが、最後も妙なことをしたな、と思うと不謹慎ながら笑いが生まれるほどに、僕はその死を受け入れることが出来た。まったく、やってくれたよ。
 さて、弟の死、退職というありがたくない出来事に見舞われた僕は何か景気のいいことはないか、と思って一つ記念に家でも作ってみるか、と思った。僕も少し精神的におかしかったのは確かだろう。
 棚部が時々手伝いに来てくれるので、力仕事は二人ですることにした。そのほかの細かな仕事(例えば金具の取り付け)は一人でした。道具は棚部が一切合財を置いていってくれたので、特段困ることは無かった。家の枠組みが次第に出来上がっていくのを見ながら、なんだか秘密基地の完成を見るようで、年甲斐も無く興奮した。
 屋根がついたころ、棚部がトラックの荷台にばかばかしいくらい大きなスピーカーを載せてきた。聞くとゴミ捨て場に不法投棄されていたそうだが、建造中のログハウスにマッチするのではないかと思って持ってきたという。OTTOというブランドのそのスピーカーは冷蔵庫くらいの大きさがあって、完成するログハウスにいきなり邪魔なものが設置されてしまうのはいかがなものかと思ったが、筐体の木目がログハウスと奇妙にマッチしており、試しに置いてみるとあまりにもはまりすぎているので棚部も僕も「これはいい」とお互いに頭を振ってそれらを眺めた。
 天気のいい日を選んで特殊なニス塗りをして、完成したログハウスは広さ十畳程度のささやかなものだったが、ちっぽけな人間がたった二人で作ったことに僕は大いに満足した。自宅の敷地内にあるので、特に不便も無く、どうせ遊びで作った家なので物置にでもするつもりだったが、完成を祝して僕と棚部は高校の同窓生を集めてささやかなパーティを開いた。引っ越し祝いと言って棚部がレコードプレーヤーをくれた。僕達はビールを飲みながら、その安っぽいレコードプレーヤーをアンプに繋いで、OTTOのばかでかいスピーカーでビートルズを聴いた。途中で雨が降り出し、雨漏りしたら困るなと思ったが、それは杞憂だった。しばらく雨の音が続いていたけれど、そのうちに止んだ。
 友人が帰った後で、空き缶とごみを袋に詰めて母屋(と呼ぶのが相応しいだろうか)へ持っていき、代わりに寝袋を抱えて戻った。晩秋だったが、まだそれほど寒くはなかったので、僕はこのログハウスで最初の夜を過ごそうと思った。風が出始めていた。黒い雲がすごい速さで空を流れていった。
 誰もいなくなったログハウスの中は驚くほど静かだった。時計も冷蔵庫も無い。じっとしていれば、そこに時間が流れているかどうかも分からないだろう。音量を絞ってまたビートルズのレコードを再生する。横になって、見上げる天井の窓に、弱々しい月のナイフが姿を見せていた。
 弟にも見せてやりたくなって、僕は少し泣いた。

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お部屋拝見

こんな部屋に住んでいます。

Habitacion床の赤さに惚れた。自然光が入るので、日中は窓辺で本を読んでいることが多いです。ヨーロッパの照明は暗いことが多いため、僕としては大変助かる。建物の6階にあるので、エレベータがなければとてもとても。写真には写っていませんが、手前に洋服棚とベッドがあって、広さは6畳くらい。日本の自宅の部屋より少し狭いかもしれませんが、とにかく床が美しいので、来て早々ワックス掛けをしてしまいました。Casa01

こちらはサロンです。大きなテレビが壁にかかっていますね。サロンには5.1chサラウンドスピーカーが配されているのですが、対応していない番組も多い。なので本領発揮は映画くらいのもの。

あれ、5弦ベースがあるぞ(僕のではない)。

Casa02 後ろを振り返るとソファーがあります。手前に写っているテーブルで食事をします。かなり広々としているので、夜にはこの部屋で本を読んだりします。

 

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premiss/premise

Florasあと二日くらい寝ていれば、風邪が治りそうな私です。

なかなか思い通りに作業できていないのですが、この風邪ひきの余暇を利用して『ドン・キホーテ』をスペイン語で読んでいます。なんせ長大なので、スペイン語で仕事をしている人でも読んだことがない人は多いはず。かくいう僕はセルバンテスの時代よりも後の時代が専門なので、そんな古いものと敬遠していましたが(自分も十分古い時代ですが)、かなりスペイン語が違うなあ、と感慨深く、しかし慣れてくると案外読めるようになってきて、言語って面白いなあ、と思います。

とりわけ、今のスペイン語には継承されていないけれど、他のロマンス語(俗ラテン語から派生した言語)にはその痕跡が見られる表現などを見ると、面白いと思います。

歯で難儀した僕にもうってつけの箇所がある。僕の訳で。

Porque te hago saber, Sancho, que la boca sin muelas es como molino sin piedra, y en mucho más se ha de estimar un diente que un diamante.

(というのは、サンチョよ、教えておくが、奥歯を欠いた口とは石臼を欠いた水車小屋もいいところ、歯はダイヤモンド以上にもっともっと大切にされるべきものなのじゃ。)

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ノキアにしとく

Nokiaスペイン到着して最初にしたことといえば、携帯電話を買ったこと。

家探しに公衆電話からというのもちょっと辛いので、必要になりました。ちっこくて、いかにもノキアという携帯です。このデザイン、もはやクラシックだ。

モコモコしているキーボードはウルトラマンのスーツのように、なんだかビニールっぽい。最初はちょっと気持ち悪かったけれど、慣れると案外よろしい。これ、多分防水の意味もあるんだよね。携帯電話は微量でも水に弱いので。

でも、日本にいたときでさえ携帯に苦手意識があったものですから、買いに行くのも多少躊躇したのですが、他にすることなくて・・・(ヨーロッパの週末はすることないのよ)。月ごとに請求が来るタイプではなくて、料金をチャージしてつかう、まあプリペイド式に近いです。キオスクや電話屋さんでチャージできます。使い過ぎなくてよいのかも。

日本では携帯電話会社ごとに機種が違っていますが、こちらではどの機種でも使えます。携帯電話会社は自分で選びます。僕の選んだ会社は国際電話も案外安いです。他にもビジネスで使う人に便利なプランや、家庭の電話としても使えるものなど、電話会社は料金プランの拡充で競合しています。良いことだ。

そのほうが自分の好きなデザインを選べていいですね。

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花とココア

すこし天気が回復してきたスペインです。

今日は花の写真を。

Gerberarium 出発に際し送別の席でいただいたブーケ。花は薔薇よりガーベラが好きな僕。それを知っている人はガーベラを贈って下さるので大変嬉しいです。

風邪が依然良くならないので、日中も寝ていました。やはり夜が寒いので今日は毛布を買いに行きました。今あるものでは十分ではないと思ったので。

ところで、僕は朝コーヒーを飲むのですが、スペインではバルのコーヒーが大変おいしいので家では飲まないこととしました。代わりにココアを飲んでいるのですが、これが大変おいしい。ミロみたいな感じですが、こちらではCola Caoというものがマジョリティ。Coca colaのアナグラムかと思わせるところもいい。

こちらでは朝ごはんはけっこう簡素なのですが、このココア、お母さんがこどもに作ってあげるような感じです。僕にとってスペインといえば、というもののひとつ。体も温まるのでちょうど良い。

家にいる時間が長いので、案外料理に時間をかけられます。新居の食器や設備を確認しつつ、という感じです。オーブンがあるので、今日はピザを焼いてみるつもりです。これは自分で作るわけではありません。でも、先ほど(毛布と一緒に)バルサミコ酢を買ってきたので、サラダに手間をかけましょう。

皆様も、お風邪など召しませぬよう。

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